光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

流民

Rollei 35 / S-Xenar 40mm F3.5 (HP5 PLUS)

先日、九州に出張に行った。ぼくの仕事の性質上、外に出かける機会はあまりなく、しかも上司とかもいなかったので半ば遊び気分であった。博多での作業が終わった後、せっかくなので1日延泊して帰ろうと思い、しかしそのまま博多にいてもつまらないので今まで一度も泊まったことがない佐賀に行った。 最近流行りのご当地B級グルメや、その土地だけのローカルメーカーの食品なども旅の楽しみのひとつだ。佐賀と言えば最近はシシリアンライスというご飯などをウリにしたり、またブラックモンブランという佐賀のあたりでしか買えないアイスなどもあり、エンタ芸人の例の歌に反し案外期待できそうな街だ。

駅前に宿を取ったあと、商店街のほうに行きシシリアンライスで有名な喫茶店で食事をした。ご当地B級グルメのご多分に漏れず、ご家庭でも再現できそうな内容なのであるが(要はほぼ焼き肉ライスなので)、そのほかにも途中で見つけた老舗のパン屋で明日の朝食用のパンを買ったり他の古い喫茶店を探したりなど、それなりに堪能しつつホテルへの帰路についた。 ご当地フード探しのために旅行中は必ず用が無くてもコンビニとスーパーは覗くようにしているので、佐賀駅近くの西友に入ろうとした。すると、突然おっさんに話しかけられた。 どちらからと言うので東京から仕事で来てますと答えると、「仕事…いいですねえ」と言われた。曰く、仕事を探して大分のほうから佐賀までやってきたが、まったく仕事がなく、もう30円しか残金がなくこのままでは生命の危険すらあるかもしれないといった身の上話であった。仕事探しなら多分博多に行った方がいいんじゃないかと思ったりもしたが、要するに何を要求しますかと訊くと、おっさんは300円欲しいと答えた。さっき買ったパンならあげるよと半額セール60円のパンをあげると、それはそれで嬉しいが、西友の300円の弁当が食べたいなーといった趣旨の、端的に表現するところのゼイタクを言い出した。 ぼくはおっさんに、「今の言動を辞書で引いてご覧なさい、『身の程をわきまえろ』と書いてありますよ」と言いたくなったが、ちょっと面白かったのでそれはやめて、「では、ぼくは趣味で写真を撮り歩いているので、おじさんの写真を撮らせてください」と言った。たぶんこの汚いおっさんにモデル代を出すのは後にも先にもぼくだけだろうが、おっさんはそんなもんで金がもらえるならどうぞどうぞと言わんばかりに乗り気になってくれた。 何枚か撮ったがかろうじて唯一写っていたのはこれだけだった。真っ暗だったし、目測では少々きつかった。左手に持っているのがぼくがあげたパンだ(本当はご飯が食べたいが、これはこれで貰うとのことだった)。「パンを掲げたほうがいいですか」なんて多少のサービス精神もみせてくれたが、そういうのはご無用だ。 もういいかと思ったところで、「本当は煙草喫いたいんですよね、少し多めに」と財布にあった500円玉を渡した。本当はぼくも西友に寄りたかったが、一緒に買い物をするのもいやなので、仕事見つかるといいですね、とおっさんに言って、ぼくは一旦そのままホテルに帰った。本当はあのおっさんが大分から来たわけでも仕事なんか探してるわけでもないのは重々承知しているが、別にそれでいい。