光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

鴨葱

MINOLTA CLE / Elmar 5cm F3.5 (FP4 PLUS)

インド旅行記(20)

ガンガー沿いを歩いていると、やたら日本語のうまい、16歳前後くらいの男の子供が声をかけてきた。名前をタダシと名乗った。 この界隈には日本語が堪能なモケというインド人がいて、日本人にもこの辺のインド人にもちょっとした有名人だ(予習のために立ち読みしていた旅行記マンガか何かに出ていたのでぼくも名前だけは知っていた)。日本人の奥さんがいて、お土産などを売っていると聞く。タダシはこのモケの一味らしく、自分は無理にお土産を売ることはしない、ただ日本人が好きだからガイドをしてあげる、とついてくるので、せっかくだから追い払わないで話をしてみることにした。タダシは、深夜特急は見たことがあるかとか、大沢たかおを知っているかなどと定番の話をしてくる。最終的にお土産屋に連れて行かれるのは明白だが、ちょうど列車の寒さでストールか何かが欲しいと思っていたので、まあ毒を食らわばの精神で乗っかってみようと思ったのであった。 タダシのガイドは予習をあまりしていないぼくにはそれなりに役立つものであった。ガンガー沿いには火葬場が2箇所あり、その規模の小さいほうに案内してもらったので暫く眺めていると、妙に次に行かないかと急かしてくる。ああそろそろ来たな、という感じがし、その予想通り土産屋に誘導された。 モケの店には自分の友人だという日本人の顔写真が十数枚、柱に貼ってあった。友人の写真という割にはいかにもパスポートの証明写真のように無表情のバストアップばかりだったのだが、後で聞いたところそれはネパール行きのビザ申請を依頼したりした人のものだろうということで、要するにボラれたカモネギのアホヅラ一覧のようなものらしい(本当のところは知らないが)。悪魔将軍の超人マスクコレクションをちょっと思い出しつつ、こんな風になるのは勘弁願いたいなあと思っていると、モケは早速商談に入ってきた。100%カシミアのストールは2000ルピーくらいとのことで、日本円で約4000円だ。確かユニクロのカシミアストールで同じ位だったような気がするので、つまり現地相場としては間違いなく高価いと判断した。しかし布が欲しいのもあったので、ワンランク下という布を交渉を重ね1200ルピーで購入した。これだって相当にボられているはずという思いもあったが、ガイド料やこの後の旅行代理店の紹介(この行き先のチケットを買っていなかったため)なども含めまあいいかと自分に納得させようとした。一応、その後もタダシはきちんと旅行代理店に案内してくれたりはしたのでちゃんと約束の仕事はこなしているが、一気に愛想がなくなり、まるで一回ヤった後の男のようであった。 この日の夜、先の列車の寝台で上下を交換した世界一周中の人と再会し、一緒に食事をすることにした。店では他にも何人かの日本人が入ってきたりして(自分の出た大学の学生さんがいたので先輩ヅラしたりした)それなりに楽しい時間を過ごした。この店の店員も日本語がうまいので、先ほど購入した布は実際のところ大体幾ら位なのかを聞いてみることにした。店員は、絶対返品とかしにいくなよ、と念をおした。勿論と答えると、店員は、「(現地相場は)100ルピー」と言った。