光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

定石

MINOLTA CLE / Elmar 5cm F3.5 (FP4 PLUS)

インド旅行記(09)

オールドデリー近辺から宿のあるメインバザール付近へは地下鉄でも行けるのだが、駅まで歩く時間を考えると少々微妙だったのでまたもリクシャーを拾うことにした。今度はいかにも怪しいやつしかいなかったのだが相場を知っているので問題ない。来たときと同じ価格で宿に帰ってきて、預けた荷物を受け取り宿の前にあるチャイ屋で雑談をしていたリクシャー運転手に声をかけ、今度はアーグラーまで向かう列車が出る駅まで向かった。世話になったMさんはちょうど宿のロビーにはいなかったので、たまたまいた日本人の人にもし会ったら小さい黒縁眼鏡がお礼を言っていたと伝えてくれるよう頼んだ。 リクシャーはさすがに油断しているところに声をかけたような人だけあって、途中のインド門やらの観光名所をチラッと通過しながら紹介しつつ駅まで滞りなくつれてきてくれ、勿論追加料金など請求してこない良い人だった。今のところトラブルらしいトラブルに遭遇していないので少し拍子抜けしているところだが、Mさんはアーグラーは観光地だけあってタチが悪いのが多い、と言っていたので油断はできない。しかしここでまだ2日目、9回目更新にしてようやくデリー脱出である。我ながら引っ張りすぎている気がするが、後半巻き返すので問題ない。

さて、インドでの初めての鉄道である。旅行代理店の人にお任せして取ってもらったのでクラスは2Aという、上から2番目のエアコン車であった。この移動は約3時間なので、一般の貧民が乗るような列車でもいいかなとは思ったが、正直暑さには参っていたので助かる。2Aの車両はガラガラだったのだが、一人席の向かいに座ったインド人の青年と少しだけ話をした。といってもぼくはまともな英語は喋れないので日本から来たとか今夏休みだとかその程度しか会話できず、後は互いの世界に入るだけだった。こういうときに毎度ながら英語を勉強しようとか思うものだが、ちょうどこれを書いている時期くらいになるとその熱も冷めるのである。念のためとワイヤーを荷物にかけたが、物盗りなどはまず居なさそうな、むしろもし盗るとしたらその青年くらいしかいないという感じだったので気を悪くするかな、とも思ったが、それは自己責任の感覚が希薄な日本人特有の思考だと切り捨てて彼の前で堂々とワイヤーをかけてやった。青年は明らかに中流以上の人間でまず盗みなどしないだろうが、彼もまた別になんとも思わないだろう。途中の駅で青年は下車し、握手をして別れた。 アーグラーに着いたのは定刻より30分ほど遅れてのことで、遅れるのが普通であると散々聞かされていた割には早いな、と思うくらいだった。もう外は暗く、一抹の不安も覚えるが、列車を降りた瞬間からマンツーマンディフェンスを仕掛けてくるわけのわからないインド人を無視しつつインフォメーションに行き、タージマハル付近へはどう行けばいいか尋ねると、プリペイドタクシーを使えというのでそのチケット売り場へ行った。 売り場では何人ものインド人がここで金を払うんだとか勝手にガイドを始めたりしていた。しかしガイドブックに書いてある相場の倍以上だったので不可思議に思い、最初はまけろといったりしてみたがどうにも本気でだめそうなのであきらめて定額プリペイドのチケットを買ってタクシーに乗った。後から聞くと、タクシー(自動車)だから高く、プリペイドリクシャーだったらそのガイドブックの相場どおりだったのだそうだ。別に移動できればタクシーでもリクシャーでもいいのでまた負けた気分になった。 車は15分ほど走り、人ごみの中ある宿の前で停止し、さあここだと案内された。とりあえず行き先の宿を告げないとどうなるかわからないので事前に運転手にはガイドブックで見繕ったサニヤというホテルに行けと指示した。さてフロントに入ってみるとどうも雰囲気がおかしい。よくよく見てみると、ホテル名はサニヤではなくサイイであった。ここはサニヤではないではないか、と言うと、運転手はエーここでいいんじゃね?というベタなリアクションをする。いわゆる誤用のほうの確信犯である。ホテルのフロントもムーディー勝山みたいな胡散臭いやつで、うちのホテルも素晴らしいですよとニヤニヤしながら言ってくるのだが、指定したところに行かなければこのプリペイドチケットは渡さないぞ、と立ち去ろうという素振りをしたら流石に今度はサニヤに案内した。 別にサニヤも実際見てみると良いというほどの宿ではなかったが、屋上からタージマハルが見えるというので翌朝の眺めに期待しそこに決めた。エアコンが無く大丈夫だろうかと思ったが、結果的には天井のファンだけで一応眠ることができ、別にエアコンもいらないかもしれない、と思い始めた。生来暑がりなぼくは暑いところでは本当に眠れない。しかし多くのホテルではエアコンの有無で部屋の価格が倍以上変わってくるのでこのファンのみの部屋は試金石的な意味も持った。普通に眠れ、また洗濯をしたがこれも乾きやすかったので基本的には今後もエアコンなしでも大丈夫と判断した。 夕飯はこの宿の屋上のレストランでとることにした。タージマハルは夜ライトアップするわけでもなく、この時間ではよく見えなかった。 宿のスタッフらしき青年が話しかけてきたので食事をしながら話を聞いた。IT系の仕事(一応ね)だというと、ラップトップPCは持っているのかと聞かれたので持っていると答えると、うらやましいと言われた。またネットの回線も日本は光ばかりなんだろう、インドは遅くてだめだと案外ちゃんとわかってるようなことを言われた。確かにデリーで入ったネットカフェはPCがボロすぎるどころか自分が10年近く前にアキバでバイトしていたときに扱っていたブラウン管15インチモニタなどがあってちょっと懐かしさにヤラれそうになったくらいだ。もしかしてあれは日本からのお下がりだったりするのだろうか。インドはIT大国だとよく耳にするが、少なくともこれまでそうした側面は一度も見かけていない。どこかの街のどこかの一角にそういう場所があるのかもしれないし、近い将来仕事でインドの会社と絡んでみたりもするのだろうが、それでもインドの街の9割は相変わらず牛や犬やヒトのウンコであふれかえっていることに変わりはないのだろう。

写真はオールドデリーにて。自分の商品の素晴らしさを身をもってアピールする布団屋。