光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

旅立

MINOLTA CLE / Elmar 5cm F3.5 (FP4 PLUS)

インド旅行記(04)

2日目の朝は雨だった。元々この時期は雨期と重なっており、日本で見ていた世界天気予報でもデリーは旅程中ずっと降水確率95%だった。なのである種諦めというか、そもそも雨の日は結構好きなのでそれはそれでいいか、というくらいに思っていた節もあり、さして悲観的には感じなかった。 この日はデリー市内を観光した後に、夕方の列車でタージマハルのあるアーグラーへ移動する予定だった。ホテルのロビーにいたMさんにデリー市内観光の相談をするつもりだったのだが、ひとまず同じく移動待ちでロビーにいたSさんと少し近所を散歩してみた。 一般的に、バックパックを背負ったまま一人で歩くと相当な確率で声をかけられる。旅行代理店の息のかかった者、リクシャー(オート三輪のタクシーみたいなやつ)、サイクルリクシャー(自転車タクシー)、物乞い、土産屋……まさにバックパックに日本人の組み合わせはドラクエIIIの黄金の爪を取ったときのエンカウント率となる。これが荷物を極力減らすと声のかかる数は減り、更に複数人でいると減る。ぼくの旅も序盤ということで、仲間付きで宿の付近をうろついて経験値を積み、やばくなったらすぐに宿に戻るというふうにすれば安全であろうと判断した。 少し歩いた後、Sさんは一足先にアーグラーへ向かうということで、今度はぼく一人で宿の周辺をうろつくことにした。 やはり一人になった分、先ほどよりもあちらこちらから声をかけてくる奴が増えた。ハローハローとかリクシャーリクシャーとか聞こえてくるが、いちいち反応していたらキリがないので完全に無視を決め込んで歩いた。あまりきょろきょろしたりもしないように、しかしこの街を歩く際のリズムやタイミング、そして緊急避難先であるホテルの位置を常に意識した。 ふとなぜだか、あるハローの声にだけ、ぼくは反応してしまった。何が違ったのかというと、それは子どもの声だったこと、そして建物の上のほうから聞こえたということ、あとこれは勘違いかもしれないが、言うなればカネ儲けの臭いが感じられなかった、ということだった。ベランダなのか元々部屋だった空間からズッポリ壁が落ちたのかよくわからない場所に立つ二人にぼくはカメラを向け、ナマステー!とこの旅で最初の現地語を声にした。 気がついたら雨は止んでいた。