光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

心緒(3)

Leica MP / Voigtländer ULTRON 28mm F2 (HP5 PLUS)

【2013/6月某日記す】 子供を産むという行為について当事者になったゆえに勉強を始めたが、調べれば調べるほど不確実要素、不安要素に満ちている。某大家族番組においてその母親は、「土日より平日に産まれてくれるほうが安いから良いわ!ヘッヘッヘ」などという、殆どの人はあまり気にしないオトク情報まで披露していたが、こっちはといえば勿論初めてのことで、はっきりいって怖くて怖くて仕方がない。妻は5月からずっとぜんそくのような症状が治らず、酷い咳をしていた。幾つかの薬を試し、ようやくぜんそくの薬がまあまあ効果があるとわかったものの、今度はその薬が胎児に悪影響がないかという点に不安が残った。これは医師やネットの情報によって若干解釈が違うところもあり、これもまた精神的な不安に繋がった。またちょうど妊婦と風疹の話が流行っていたこともあり、ぼくら夫婦は丁度予防接種を受けていない世代なので、ぼくは早速予防接種をしにいったが、妻は今からでは予防接種できないのでこれも心配であった。 さらにそもそも、妊娠がわかったその直前に福島の原発事故による立ち入り禁止区域境界のところまで見学に行っていたこともあって、いわゆる「放射脳」の人たちのようなビビリ方はしなかったものの、それでもこれもまた少し不安を煽る要素となった。 初期の流産率なども意外なほど高いもので、これは割と身近に体験談を聞くこともあった(ぼくの両親も、ぼくを産む前の子を流産していたらしい)し、どうやら無事に産まれてくれるまでの道のりが果てしない奇跡の向こう側のことのように思えてしまう。 なのでたとえば不幸な結果になったとして、あまりその無駄に気遣いさせてしまうのも考え物なのでしばらくは周囲には黙っておくことにした。お互いの会社の上司にだけは流石に必要なので報告したが、あとは両親にはいつのタイミングで報告するのかが悩みどころであった。やはり無駄な心配はかけたくなく、理想としては安定期に入ってからなのだがあまりに遅いとそれはそれで…というのもある。 などなどと色々考え、結局は父の日にモノを送ったついでに報告しておくことにした。たとえダメであっても、まあ自分の倍生きている年長者ゆえ、その辺の心理的な対処はしっかりしているであろうという判断だ。 一方で周囲の知人友人にもオープンにするのはいつにしようか考えていたが、話し合った結果、ダウン症をはじめとした先天性疾患のクアトロ検査をした後、ということにした。 まったく基本的には酷い話でありこういうことを書くと叩かれるのかもしれないが、自分たちの問題で自分たちの決断なので、無責任にどうこう大手小町のアレな知らない人らに言われる筋合いもないのできちんと記すことにする。ぼくたちとしては悩みに悩んで、最初は血液検査をせずいきなり羊水検査をして確定判断を出し、万が一そういうことであるとわかれば…、という覚悟を決めた。血液検査だとあくまで確率しか出ないので、結局今度はその数字の判断に迷うからだ。だったら…という考えだったが、そもそも羊水検査も流産リスクがあり、推奨はされないということもある。そうした点をぶっきらぼう産婦人科の先生にはっきり伝えたところ、やはり推奨されなかった。結局まずは、血液検査を実施可能な段階になったらすぐに行う、ということだけ決めた。

自分の親がときどき言っていた「無事に産まれてきてくれただけで充分だよ」という言葉の重みがこんなに身に染みてよく理解できたのは、やはり当事者になったからだろう。