光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

嗅覚

Leica MP / Elmar 3.5cm F3.5 (HP5 PLUS)

昔のどうでもよいシーンを思い出すときは、大体においがきっかけだ。 夏のにおい、暑苦しいむわっとした部屋のにおい、にわか雨のにおい、プールのにおい、煙草のにおい、セックスのにおい、……思い出そうとしなくても、ふと頭に風景がよみがえることがある。それは決まったシチュエーションで、特別な経験や特殊なシーンではない。ごくごく日常のヒトコマというやつだ。そのヒトコマも、なんで敢えてそのヒトコマが脳内でチョイスされているのかはわからない。ほんとうにどうでもよすぎて、人に話してもまず何もおもしろくないので特に話したこともない。

たとえば雨のにおいは、小学校3年くらいのときの、一人での下校途中。学校から家まで徒歩で30分くらいかかっていたのだが、その途中に雨が降ってきたときのにおいだ。そのシーンの場所も決まっていて、ちゃんとピンポイントに、このあたりだと指し示すことができるくらいだ。 暑苦しいむわっとした部屋のにおいは、夏のある日に家に帰ってきて、ぼくはTWO-MIXという声優がボーカルをしているユニット(なつかしい!)のシングルCDを開けている。ゆえにこれはガンダムWというアニメがリアルタイム放送していた年のことと推測できる。しかし「むわっとした部屋のにおい」といっても、実家の自室と同じようなにおいでないと反応するわけではない。今住んでる家では無反応だ。

人間の嗅覚というのは諸動物と比較するとあまり大したことがないとよく聞くが、ぼくもやはり嗅覚によるフラッシュバックの新規シーンが追加されることは殆どない。最近はもっぱら、外国人の体臭+独特の香水のにおいで、海外に行ったときのことを思い出すくらいだ。あれも、例えば同じインド人でも数種類あるので特定のパターンの人しか反応しないのだけど。 これから生きてて、どれだけ新しいにおいをぼくは憶えてしまうのか。とはいえ所詮犬じゃあるまいし、そう多くはない気がしている。