光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

妖刀

Meopta Flexaret VI / Belar 80mm F3.5 (FOMAPAN 200)

小学校に入学して、初期装備として配られる「おどうぐばこ」というものがあった。ドラクエで言えば棍棒と布の服といったところだ。はさみ、ノリ、クーピー、定規などなどが入っていた気がする。これぞオトナの階段…!と最初に手にしたとき実感したのをかすかに憶えている。ところでその中のはさみ、これが実は未だにぼくの手元に健在なのである。およそ25年前の、高級品でも匠の逸品でもない量産品のはさみが、まだここにある。 これはもう、長年にわたって人を斬り続けた日本刀が妖気を帯び意志を持ち妖刀となる、みたいな展開になってもおかしくはない。 小学校6年間のあらゆるカリキュラムをこの1本で、どこかになくすこともなくこなし続けた。陰毛の長さがすごく気になった中学校の修学旅行前、このハサミでおもむろになるべく短くカットした。高校の頃、両面テープか何かを切って刃の合わさる部分がベットベトになった。そんなこのはさみとの生活も大学入学、上京とともに終わりと思いきや、しかし今もここにあるということはわざわざ実家から東京に持ってきたということになるのだが、なぜ持ってきたかの記憶もない。きっと勝手にバッグの中に入ってついてきたのだ。そうやって25年以上、ぼくの身の回りのあらゆるものをバッサバッサと斬って斬って斬りまくってきたのだ。妖刀村正と呼ぶことにしよう。

今では、はさみの刃を開いて閉じるときのスシュッという音がやたらとかっこよく、ものすごい切れる伝説の剣のような雰囲気を醸し出す。 そして刃の部分に太陽がニッコリと笑っている意匠が施されている。こいつの目はいつか光るかもしれない。