光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

暗闇

Leica MP / Summilux 50mm F1.4(2nd) (FORTEPAN400)

ダイアログ・イン・ザ・ダークというワークショップに参加してきた。 前々から興味を持っていたが、常設ではないイベントのため、気がつくと終わっているということの繰り返しだった。今回は仕事の都合上夜勤の日があり、この平日の出勤前の当日券というかたちで何とか参加にこぎつけることができた。

ぼくの参加する回は、ぼくの他にカップル1組、大学生風の男子3人組、1人参加の女子の計7名のメンツだった。そして、視覚障がい者のアテンドにガイドしてもらいながら、目を開けても閉じても変わらない暗闇の中を進む。最初、メガネはお預かりしますと言われたとき、「あ、そっか」と口にしてしまった。確かにメガネの存在意義はここでは皆無だ。

頼りになるのは、アテンド、右手に持った白杖(入場するときに借りる)、きっと明るいところで見たら情けない腰つきをしながら顔の前に出しているであろう自分の左手、そして周りの人たちの声だ。杖で探ると、下が砂利なのか床なのか、何か段差があるのか、ということが結構わかる。たまに生暖かい物体に触れ、あっすいませんなどと言いながら少しずつ進む。いや、正確には「進んで」いるのかもよくわからないが、時折アテンドから次はこちらのほうに、というほうに進む。途中の丸太橋は大学生の誰かに助けてもらい、小川のありかはカップルに教えてもらい、草原では落ちている野菜や、そこにあるブランコの存在を女子に教えてもらったりした。後から思えば、自分自身による能動的発見が無かったのは、暗闇の中で守りに入り(ああもうまるでダメなサラリーマンだ!)、積極的な行動が足りなかったのかもしれない。あの世界では、動かなければ何も起きない代わりに何も知ることができないのだ。いやいや、あの世界だけでなくそれは「この」世界もそうか。

参加した日時とメンバーが良かったのか、きっちりと静寂を味わうこともできた。アテンドの少し休みましょう、という提案により、草原のようなところに座りこんだとき、演出される牛の鳴き声や水の音などはあるが、外界の音もせず、牧草の匂いと、そこに座ったり寝転んだりするメンバーの気配だけというあの時間は言いようのない素晴らしいものだった。

最後に、暗闇から出るとき、その外界との中間の小部屋にてアテンドの人とお別れしたのだが、結局そのアテンドの人の顔をうかがい知ることはできなかった。「あちら側」の世界の人、のような演出でなんだか感動してしまったが、あの人たちからすればこちらもあちらも何ら変わらない世界なのだ。

暗闇はカメラが、写真が存在する意味を持たない世界だ。だから当サイトのイントロには、くらやみだけがおそろしい、なんて書いたりしたけど、体験してみると、結構そういう世界も悪くない、いやむしろ性に合っているのかも、とも思った。実は世の中は思いの外、見えすぎちゃって困っているのかもしれない。 しかし不思議なことに、あの体験を回想すると、もやもやと「映像」が頭に思い浮かんでくるのであった。ああつまりこれがまさにカメラ・オブスキュラというやつか!ということで自分の中で腑に落としておくことにする。