光景ワレズ

KOUKEI-Warez photography

小憩

MINOLTA TC-1 / G-ROKKOR 28mm F3.5 (PRESTO400)

近所の商店街にある、おもちゃ屋が閉まるのを知ったのは例のSNSのコミュニティからだったろうか。 ここ数年は、殆どおもちゃなど買わなかったので(逆に言えば、ほんの数年前はちょっと買っていたのだが)まったくご縁のない店だったが、商店街の当たり前の風景としてそこにあることは知っていた。大型のチェーン店や、デパートの一角に入っているおもちゃ屋とは違った、あの子どものみならず目をひく不思議な存在感のあるごちゃついたディスプレイがそこにはあったのだが、例のSNSの書き込みを見かけて以降、そのショーケースは次第にシンプルになっていった。 ある休日にそのおもちゃ屋の前を通ると、店頭にはWiiのACアダプタ、BB弾、そして、コマ回し用の紐が売られていた。コマ本体はそこに無く、紐の単品価格は20円だった。最終処分セールとのことだが、しかし一体これはどれくらいお買い得なのか、ということを推し量っていると、店の奥から店主がやってきた。 店の奥の棚をちらりと覗いてみると、そこにはもうまったく何も入っておらず、閉店処分で売ったり返品したりしたのだろうが、もはや店としての材料は何も存在していなかった。店主は、もうそこにあるものだけしか無いんですよ、とBB弾や紐を指して言った。いつ閉めるんですか、と尋ねると、あと1、2時間です、と店主は言う。 少し話を聞くと、この店はこの地で80年営業していたということで、一度も買い物をしたことないのに無責任な言い方で申し訳ないのですが、しかし寂しいものですね、と言うと、そう言ってくれるだけでもありがたいと答えてくれた。そのコマの紐を買おうか悩んだが、何かかえって失礼な気がして止めた。よかったら写真を撮らせてくれませんか、と頼むと快くOKしてくれ、では代わりに、とアメ玉をひとつ頂いた。 現像してみたこの写真を眺めていると、後ろの棚にはもう何もなく、がらんどうとしているのだけど、それでも何かおもちゃ屋独特のあのワクワク感は失われていない気がしてならない。